『「砲兵」から見た世界大戦』に参考文献がないことへのご意見を参考して、2018年3月31日に「より楽しみたい方への読書ガイド」を追加しました。
誠に恐れ入りますが、電子書籍版をご購入いただいた方はデータのアップデートをお願いしたいです。
オンデマンド書籍版をご購入いただいた方は、誠に申し訳ないのですが、以下が追加文なので、こちらを読んでいただきたいです。ご不便をおかけして申し訳ありません。
より楽しみたい方への読書ガイド
この本はご存知の方もいらっしゃると思いますが、ブログ「砲兵の仕事」を加筆・再編集したものです。ひと昔前に書いたものですから執筆当時の想いは薄れてしまっていて申し訳ありませんが、この分野に興味を持たれた方に執筆の参考にした書籍、資料をご紹介したく思います。ただし「これを読まねば、語るべからず」といった料簡の狭い話ではありません。もっと楽しみたい方、外国語が苦にならず、お急ぎでない方へのお薦めです。
■J. B. A. Bailey
Field Artillery and Firepower
この本は砲兵戦術を19世紀から現代に至るまで概説したもので、大変参考にしています。用語の理解がないとなかなかピンとこない部分もありますが、大まかな流れを知るにはとても役に立つ良書です。
また日本ではあまり馴染みがないブルフミュラーの砲兵戦術改革を概観するにはこちらが便利です。ブルフミュラーの砲兵戦術は日米英ソの砲兵に大きな影響を与えています。新しい発想を持ち、役に立つ提案を採用して育てる仕事を驚くほど短期間で成し遂げた砲兵の異才について知りたい方はぜひお読みください。1918年春のドイツ軍攻勢を砲兵の視点から眺めるには好適な書です。
■David T. Zabecki
Steel Wind: Colonel Georg Bruchmuller and the Birth of Modern Artillery (The Military Profession)
砲兵の視点から眺める1918年攻勢というならば、歩兵の視点からも一望しなければなりません。そうであるならこちらをお薦めします。
■Bruce I. Gudmundsson
Stormtroop Tactics: Innovation in the German Army, 1914-1918: Innovation in the German Army, 1914-18
1918年攻勢を成功させた要因として解説されることの多い、いわゆる「浸透戦術」と「突撃隊」がどのようにして生まれ、育っていったかを知るには十分な内容があります。少し前まで1918年攻勢は「浸透戦術」が勝因という解説が主流でしたから読む価値があります。それと同時に、戦後にこの戦術が各国陸軍に手放しで受け入れられた訳でもない理由も見えてくるかもしれません。
■David T. Zabecki
The German 1918 Offensives: A Case Study in The Operational Level of War (Strategy and History)
こちらは1918年攻勢について、もう少しマクロな部分から論じた解説です。Steel Windと同じ著者ですから、それぞれに繋がる部分があります。大規模な攻勢作戦がどのように立案されていくものなのかを知る一例として楽しめます。
■Robert H. Larson
The British Army and the Theory of Armored Warfare, 1918-1940
火力主義に対して第一次世界大戦後に流行する機動戦思想がどのように育っていったかを知る手助けとなる本です。どのような発想でどのようなドクトリンが生まれ、どのように変貌していったのか、そんなことに興味を持たれたら読んで面白いかもしれません。ただ一般的な先駆者たちの苦労と成功の物語とは違いますので、その点は“落胆”しないでください。そうした本なのです。
■Roman Johann Jarymowycz
Tank Tactics
第二次世界大戦後期の機械化戦がどのような形にたどり着いたのかを概観するのに適した本です。最初に読む本としては不向きな点がありますが、第二次世界大戦後期の米英ソの攻勢作戦の概要を知り、諸兵科連合、諸兵科協同の思想がどのように育っていったのかを知ることができます。
■John Stone
The Tank Debate: Armour and the Anglo-American Military Tradition
戦車否定論というものは、何十年周期化で繰り返されるものなのかもしれません。1930年代の対戦車砲の充実による否定論や、1970年代の対戦車誘導兵器の発達による否定論といったさまざまな議論の末に現代があります。けれどもこうした論争の時代があったことは一般には忘れられがちです。読んでカタルシスのある本ではありませんが、もともとこうした議論があったのだと知ることがとても大切です。
■William H. French, William F. Barry, Henry Jackson Hunt
The 1864 Field Artillery Tactics: Instruction for Field Artillery
19世紀の砲兵がどんな戦いをしたのか、どんなドクトリンで動いていたのか、もうちょっと具体的に細かく知りたい方はこれを読めば概ね理解が進みます。ただしあんまり面白くはありませんので我慢が必要です。こうして考えると昔の野砲兵を描いた物語のようなものがあるとよいですね。
■Steven J. Zaloga, Leland S. Ness
Red Army Handbook 1939-1945
ソ連軍兵器についての図鑑プラス解説です。よくできた図鑑的な出版物は本当に大切だと思います。大量に生産されて配備されたソ連軍の兵器はともすればひと塊の茶色い大きな岩のような印象ですが、それぞれに開発経緯があり、それぞれに実戦での戦いの記録があり、“顔”があることがわかる有用な解説書です。
■John H. Morrow
The Great War in the Air: Military Aviation from 1909 to 1921(Univ of Alabama Pr)
第一次世界大戦以降、大規模な地上戦に航空がそれに見合った形で関与しなかった戦いはないといってもよいくらいです。大規模航空戦が生まれた第一次世界大戦の戦場で航空はどのような役割を果たして、どのように戦いに関与していったか、そして大戦後期の各国が兵器生産の優先順位第一位に航空機を据えている理由は何なのか、を一冊で知るには、第一次世界大戦の航空戦通史といえる本書は貴重な存在です。
最後に、日本語で読める出版物を2点紹介します。
■陸上自衛隊特科富士学校特科会
『日本砲兵史』(原書房)
この本は日本の砲兵史の通史として書かれたものですが、現実の砲兵として活躍した人々が自分の職務にかかわる物事をどのように考え、どのように感じているのか、が読み取れる点でも価値があります。砲兵とはどんな人たちなのか、それを知ることは紙の上でしか戦争を知らない私たちにとって、貴重な助けとなります。古書となってしまいますが、図書館などで読めない本でもありませんので、どこか機会があればご覧ください。
■小数賀良二
『砲・工兵の日露戦争:戦訓と制度改革にみる白兵主義と火力主義の相克』(錦正社)
これは最近の出版ですので本書の参考としてはいませんが、独自の視点で日露戦争後の火力主義について考察している良書です。従来とは違った切り口で日露戦争の戦訓がどのように生かされたのか、そして日本独特のものとして紹介されてきた白兵主義がひょっとしたらそうではない何ものかであることを示唆している部分もあり、細部も見落とせません。著者はもともと航空の分野を研究されていて、そこから砲兵、火力戦へとフィールドを拡げてこられた方なので、個人的な“気持ち”ではウマが合うのです。
手に取る価値のある貴重な論考だと思います。