『神の地は汚された 橘外男選集』の配信をスタートしました

神の地は汚された 橘外男選集』の配信をスタートしました。

 

■直木賞作家が描く、見捨てられた満州開拓民の悲哀に満ちた物語。

ソ連軍がなだれ込んで来ると地獄のような日々が始まった。
一方そんな状況でも、命を危険にさらしても他人を助けようとする者もいた。

「新京・哈爾賓赤毛布」「甘粕大尉とその子分」「麻袋の行列」「思い出の満鉄マン」「黒龍江の空に」5編を収録。

新京・哈爾賓(ハルビン)赤毛布
日本の傀儡国家・満州国へ、調査団の一員として訪れた著者。
ロシア人や満州人でごった返し、活気に溢れていた頃の満州を描く。

甘粕大尉とその子分
混迷し始めた大東亜戦争により仕事を奪われた橘は、生活するために満洲映画協会に仕事を得て、満州にわたってくる。
そこで、満州国のボスを呼ばれた甘粕大尉と会った。

麻袋(マータイ)の行列……オススメ
日本が敗戦しソ連軍が侵攻してくると、関東軍上層部は住民を捨てて日本に帰国してしまう。
残された開拓団は、女を陵辱しつづけるソ連兵や略奪しにくる中国人、伝染病、飢餓によりバタバタと倒れていく。
涙をのんで病人や負傷者、老人、子供を手にかけ、男も女もほとんど裸同然で憑かれたようによろめきながらハルビンへと進んだ。

思い出の満鉄マン……オススメ
冬が近づいてくると、暖をとるために入手困難となった石炭をなんとか確保しなければならなかった。
ソ連は満州鉄道により満州の資材をシベリアに運んでいたが、日本人の機関手はソ連軍の監視兵の目を盗んで、日本人のために石炭を線路脇に巻く。
しかしある日、とうとう監視兵に見つかり、事件が起きる。

黒龍江(アムール)の空に……オススメ
日本人が権勢を奮っていた時代。経理部長だった橘は、日本人の夫に捨てられ、幼子を抱えて極貧生活を送る白系ロシア人・ヴェーラを哀れむ。
しかしソ連軍の侵攻により、状況は一変。
捕えられればシベリアへ送られるため、なんとかソ連軍憲兵から逃げ回っていたが、ある夜、ついに捕まってしまう。

■麻袋の行列より抜粋
団長夫人としての責任を負うて、この老幼病者、負傷者八十何人の死の際に、自分も拳銃自殺を遂げてしまった。
「こんな淋しい山の中に、皆さんだけを、死なせはいたしません。生きてゆく人は、夫の指図に従って、無事に落ち延びて下さい。死んでゆく人は、わたしが守って必ず安全に、あの世へお連れいたします……と、真っ青な顔をして拳銃片手に仰有った、あの美しい奥様のお顔が、わしには、忘れられねえでがす。奥様もおえらかったが、旦那の団長さんも、えらかった。どちらも若い方でやすが、手を振りながら叢へはいって行かれた奥様に、団長さんは何にも仰有らねえで、やっぱりただ、手を振っていられたでやす。やがて、ドウンと拳銃の音がして……それでも団長さんは、奥様の方へ駈け寄ろうともなさらねえで、淋しそうな顔をして、行く手をじいっと眺めていられたでやす。静かな声で、さアみんな、仕度ができたら、ぼつぼつ出かけようかネ、と言われた時にゃ、わし共の方が涙を流して、女子供の犠牲者を、犬死さすでねえぞ! 何度生れ変っても、必ずこの仇は、取らにゃなんねえぞ! と、叫んだでがす……」

■著者略歴
橘 外男(たちばな・そとお)
1894(明治27)年石川県生まれ。生後まもなく軍人たった父の転任地・高崎に移る。軍人家庭の厳しい躾に反発、中学を退学処分となり、札幌の叔父のもとに預けられる。その後、貿易商館、医療機器店など職を転々とするが、1936(昭和11)年『文藝春秋』の実話募集に『酒場ルーレット紛擾記』が入選、1938(昭和13)年『ナリン殿下への回想』で第七回直木賞を受賞。戦時中は満州に渡って書籍配給会社などに勤め、戦後、文筆活動を再開、独特の文体で数々の名作を生む。1959(昭和34)年死去。
主な作品に『妖花イレーネ』『陰獣トリステサ』『青白き裸女群像』『私は前科者である』『ある小説家の思い出』などがある。